階段の上り下りや、正座をするときなど、日常生活の中で関節の痛みを感じる人は多いのでは? 関節のなかでもひざは、上体の体重を支えているうえ、頻繁に曲げ伸ばしをするため負荷がかかりやすく、年齢を重ねるにつれて痛みが出やすい部分です。日本ではひざに痛みを抱える人は1000万人以上といわれます。
そんなひざの痛みの原因の多くを占めるのが「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」。そこで今回は変形性膝関節症に注目し、原因や対処法をくわしく見ていきます。
「変形性膝関節症」ってどんな病気?
変形性膝関節症とは、大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)と脛骨(けいこつ:すねの骨)の表面をおおう軟骨が、徐々にすり減ることが原因でひざに痛みが起きたり、動かしにくくなったりする病気です。理由ははっきりしませんが、男性よりも女性のほうが発症しやすいといわれています。
変形性膝関節症はこう進む!
(1)正常な状態
ひざの関節は主に、大腿骨と脛骨から構成されています。この2つの骨の先端はそれぞれ、弾力のある軟骨(コンドロイチン硫酸やコラーゲン繊維など)でおおわれています。この軟骨には、ひざの動きをなめらかにする、衝撃を吸収・分散させるなど、クッションのような役割があります。
(2)変形性膝関節症の初期の症状
加齢や肥満など、いくつかの原因によって軟骨がすり減るにしたがって、骨どうしのすき間が狭くなります。このため、ひざを動かしにくくなったり、痛みが出たりします。
(3)さらに進行すると……
軟骨が徐々にすり減り、最終的にはなくなってしまいます。すると、骨どうしが直接ぶつかり、激しい痛みが生じます。
変形性膝関節症の原因は?
変形性膝関節症には、次の4つの原因があります。
1加齢:年齢を重ねるにつれて、ひざへの負担が蓄積し、軟骨が徐々にすりへっていきます。
2太ももの筋肉の減少:太ももには「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」という太い4本の筋肉があります。この筋肉には、ひざを動かしたり、ひざ関節にバランスよく体重がかかるように調整したりする役割があります。
運動不足や加齢によって大腿四頭筋が衰えると、ひざへの負荷が大きくなります。ひざが内側に変形したりして、軟骨をすり減らしますが、衰えた大腿四頭筋がその状態をかばいきれず、ひざに痛みが出やすくなります。
3肥満:ひざ関節にかかる負荷は、歩くときは体重の3倍、階段の上り下りではなんと体重の6倍に! 体重が増えれば、それだけひざへの負荷も大きくなってしまいます。
4外力:激しいスポーツなどをすると、ひざに大きな力(外力)が加わります。このような運動を続けると、ひざにくり返し外力が加わり、軟骨が減りやすくなります。
変形性膝関節症になってしまったら?
治療の5つの選択肢
変形性膝関節症を治療するためには、ファーストステップとして次の5つの方法があります。どの方法を選ぶかは、症状やその人の生活習慣によって変わります。また、いくつかの方法を組み合わせて治療する場合もあります。
1体重を減らす
太っている人は、体重を減らすことでひざへの負担が軽くなります。
2ひざを温める
保温性のあるサポーターや温熱療法によってひざを温めると、血行が改善され、症状が軽くなります。
3つえなどで歩行を助ける
ひざの痛みによって歩きづらい場合は、つえなどを使って歩行時のひざへの負担を軽減します。
4サポーターでひざを支える
ひざ関節の動きを助けるサポーターを使うと、ひざの曲げ伸ばしが楽になります。
5脚の筋肉を鍛える
運動によってひざを支える筋肉(大腿四頭筋)を鍛えると、ひざ関節にかかる負担が軽減されて、症状の進行を遅らせることができます。適切な運動を続けると、2~3週間で症状が軽減することもあります。逆に運動しないと筋力が低下して、さらに症状が悪化するという悪循環に陥ります。
鎮痛薬も選択肢のひとつ
上記の5つの方法を取り入れてみても、ひざの痛みが気になるようであれば、我慢せずに鎮痛薬を使いましょう。薬によって痛みから解放されれば、歩行や運動が楽にできるようになり、心臓や肺、筋肉などの働きを維持できます。
ひざに痛みがあると歩くのがつらくなり、座ったり寝たりするばかりで家に閉じこもりがちに。そうなるとひざには負担がかかりませんが、その代わりに心肺機能が低下したり、体力が落ちて感染症にかかりやすくなったり、さらに筋肉が弱ったりする可能性も。
早めの受診を
鎮痛薬を使用しても痛みが取れない場合や痛みがくり返す場合、いつもと違う症状を感じた場合には、早めに整形外科を受診しましょう。痛みを我慢し続けていると、痛みが強くなったり慢性化したりすることもあります。
変形性膝関節症を予防するトレーニング
ひざの痛みの予防や改善には、太ももにある太い筋肉(大腿四頭筋)をきたえるトレーニングが有効です。ひざの痛みが強い人や筋力の弱い人はレベル1からスタート。痛みの度合いや筋肉の強さに合わせて、少しずつレベルアップしていきましょう。
トレーニングの効果を上げるコツ
次のトレーニングは1つの動きを10カウント(ゆっくり10数える)で行います。数えるときは「1、2、3……」ではなく、「101、102、103……」とすると、秒数が正確に計れるため筋肉への負荷が増し、運動効果がアップします。
レベル1:寝た姿勢で行うトレーニング
1タオルを500mlペットボトルくらいの太さに丸める。
2仰向けに寝て、片方のひざの下にタオルをはさむ。ひざに力を入れて10カウント数えながら、タオルをギュッと押しつぶす。
3もう一方の脚も同じように行う。
レベル2:椅子に座って行うトレーニング(1)
1椅子の前方に座り、片方のひざを伸ばし、足首を立てる。
2かかとを床から10cmほど浮かせて、10カウント数える間キープする。
3もう一方の脚も同じように行う。
レベル3:椅子に座って行うトレーニング(2)
1椅子に座り、足の裏を床につける。
23カウントで一方のひざを伸ばし、脚と床が平行になるところまで持ち上げる。
3そのまま足首を立てて5カウントの間、キープする。
42カウントで脚を元の位置に戻す。もう一方の脚も同じように行う。
レベル4:立って行うトレーニング
1椅子に座り、足の裏を床につける。
25カウント数えながら、後ろの遠くにある椅子に座るように、お尻を後ろに引く。
※ひざは軽く曲げる程度でよい。ただし、ひざがつま先より前に出ないように注意。
35カウント数えながら①の姿勢に戻る。
<監修>
林 泰史先生
原宿リハビリテーション病院名誉院長